アゲハ~約束~
「今日さ、園長がご馳走だって言ってたぞ。」



 わくわくしたように、幸人は言う。

 歳相応の少年らしく、その関心事はおもに「食」だ。

 けれど、太っているわけではない。

 三年間続けてきたバレー部のおかげで、彼はひょろ長い体系の少年になっていた。



「鮭、出るかなぁ。」



 夏梅は鮭が好きだった。

 ご馳走といえば、彼女にとってはそれ以上のものはない。

 そんな二人の言葉に、アゲハは、静かに、「そうね」「そうだといいわね」と、冷めたような返事をしていた。

 けれどそれが「アゲハ」なのだと物心ついたときから知っている二人は、それをさして気に求めず。

 怒るどころか逆に、彼女から返事があったことだけでうれしそうにわらっていた。

 やがて、施設が見えてくる。

 中学から徒歩五分のところに位置しているため、三人の道中は短かった。

 そして、漂う肉の焼けるいい香り・・・



「―――バーベキューだ!」



 幸人が、目を輝かせて走り出した。



「おれ一番!」

「あ、ずるい!」



 遅れて夏梅も走り出す。

 アゲハは走ることなくそのままのペースで歩き、施設の庭にある桜を、塀の向こうから見上げながら平常心で施設の門をくぐった。


 ―――なるほど。

 門をくぐってすぐのところにある広場では、確かにバーベキューが始まっていて、いいにおいが漂っている。

 しかし、先に言ったはずの幸人と夏梅は、そこに立ち尽くしていた。

 いつもなら五月蝿いくらい聞こえるはずの、自分たちよりも年下の子供たち・・・


 ―――いわゆる「チビ」たちの声さえも、聞こえない。


 ただ、肉の焼ける音がするだけ。そして、職員たちがせっせと肉を焼いているだけ。

 そして―――・・・




 その肉焼きアミのまん前の席には、肉と米をむさぼる一人の外国人の姿があった。

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