ひとまわり、それ以上の恋
「改めて。誕生日おめでとう」
「……ありがとうございます。でも、どうして?」

「円香ちゃんの兄貴から聞いたんだ」
「兄が?」

 沢木さんのことあれだけ散々なこと言ってたのに、どうして誕生日なんか教えたりするんだろう? そんな私の疑問はすぐに解かれた。

「先週、同僚の結婚式だったんだよ。ジューンブライドって言ってさ。その時にね」

「あ、そうだったんですね……」

 そういえば、土曜日は結婚式に出席するって出ていったんだ。その時の話の流れでうっかり……っていうところだろうか。兄の焦っている様子が思い浮かんでふっと笑ってしまった。

「あ、やっと笑った。最近、すれ違っても、なんだか元気ないなって思ってたんだ」
 そんなに顔に出していただろうか、と今さら反省する。

「本当は、円香ちゃんからの連絡待ってたんだけど。なかなかくれないし」

 そういえば、名刺を渡されたあと、うやむやのままだった。沢木さんにとっては日常茶飯事のことだと思っていたし、その気でいるなんて思っていなかった。

「ごめんなさい……」
「いいよ。警戒するのも無理ないよな。椋から色々吹きこまれてるんだろうし」

 沢木さんは自嘲気味にそう言ったあと、遠慮がちに手を添えていた私にブーケを持たせる。

「これ、実は本物のブーケなんだ。花嫁のブーケトス、タイミング悪くそこにいた俺がもらっちゃって、顰蹙だったんだよ。で、ジューンブライドの幸せのお裾分け、誰か女の子にあげるってことで約束してきたんだ。ブリザーブドフラワーだから長持ちするし、良かったらもらってやって」

 濡れた髪を掻きあげて、沢木さんはそう言った。私はそっと受け取ってブーケの花びらにそっと触れた。
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