ひとまわり、それ以上の恋
「いいんですか? 私が……もらったりして」

「すぐに円香ちゃんのことが浮かんだ。せっかくだったら誕生日に、また一年いいことがありますように」

 甘い香りがする。ささくれた心をやさしく包むように。
 私の心に、あたたかな感情が流れ込んでくる。沢木さんの想いがうれしくて、なんだかジンと胸に響いた。

「……うれしい。かわいいお花……大事にします」

 ちょっとしたことで、涙腺が緩んでしまう。こんなに泣き虫じゃなかったはずなのに。いけない……と思っていたら、勝手に涙が溢れてきて、慌てて目尻を押さえた。

「円香ちゃん……?」

「あ、ごめんなさい。なんか……ちょっと、感動しちゃったんです。スミマセン」

 うまい言い訳が見つからなくて必死に目を擦っていたら、沢木さんが心配そうに私の顔を覗き込んできた。

「そうだ。これから飲みに行こうよ。 ね?」
 沢木さんがオフィスと逆の方へ足を向けた。

「仕事で戻ったんじゃないんですか?」

「今日は直帰。定時だったら円香ちゃんに会えるかと思って戻ってきただけ」

 強引に手を引っ張られて、私の手から傘が離れそうになる。沢木さんが代わりに私の傘をもってくれた。

「あの、でも……」
「俺、傘もってきてないんだよね」
「じゃあ、駅まで一緒に行きます」
「飲みたい気分じゃない?」
 首を横に振って意思表示しても、沢木さんは引かなかった。

「せっかくの誕生日なんだし、ゆっくり飲もうよ」

 沢木さんのペースに持っていかれて、私は引っ張られるようについていくしかなかった。
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