ひとまわり、それ以上の恋
 無意識の行動だって分かってる。
 だけど、求められてることが、こんなにも愛しいと感じるなんて。

 市ヶ谷さんにお似合いの女性はたくさんいるのに、どうして一人でいつづけるのだろう。

 来るもの拒まずというわけじゃなく、わざと彼はテリトリーの中に入れないで去る者を追わないでいるような気がしてならない。 

 本当に母とのことが終わった恋なら、新しくはじめたっていいのに。お付き合いする女性とは本気にならない、なれないの? 結婚したいと思ったりしないの?

 一人じゃ寂しい。低血圧でろくに起きられない……なんて言ってたくせに。

 そしたら誰かを傍におけばいいじゃない。仕事のパートナーである秘書じゃなくて。どうして恋をしようとしないの?

 私だったら、こうしてずっと一緒にいてあげるのに。
 
 ううん、私がもっとこうして傍にいたいの。あなたの傍にいたい。
 どんなに諦めようとしても、胸の奥が疼いてたまらない。

 これが恋じゃないというのなら、なんて名前をつけられるというのだろう。

 心の中で熱く持て余した想いが、口をついて出た。

「市ヶ谷さん、……好き……」

 彼はもちろん、目を瞑ったまま、答えない。
 もう一度だけ、私は呟く。

「好き……」

 言葉にすればするだけ、想いを実感するばかりで。
 好き、好き、好き……。

 何回好きだと言ったら、恋だと認めてくれるのだろう。
 どうしたら、ちゃんと伝わるのだろう。

 こんなにも、あなたのことが好きだということ。
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