ひとまわり、それ以上の恋
 彼に夢中になる女性は後を絶たないけれど、長く続いている人を見たことはない。だから気をつけてね……と言ったのは、そういうことだそうだ。もちろん、素敵な人だけどね、と美羽さんは上司に対してのフォローも忘れなかった。

 私にしてみれば、市ヶ谷さんが独身だって聞けたことが、嬉しかったんだけど……。

 せめて想っているだけなら、罪になることはないわけだし、それに、誕生日も知れちゃった。六月、私と同じ誕生月だ。

 データだけでは分からない彼をもっと知りたい。彼の側に立てる人になれたら……。そんなことまで考え始めていて。

 下着以外に夢中になれなくて、初めて男の人に恋して……きっと舞い上がっているんだ。イケナイ、イケナイ、相手になんてされっこない。ちょっと素敵な人にやさしくされたからって、本気になっちゃダメ。

 仕事、仕事、仕事!
 新人に休む暇ナシ。

 でも結局――。
 鍵をもらったことは、美羽さんには言えなかった。

 ヒミツだって言われたのなら、守らないといけないよね。
 せめて前任の峰岸さんに聞いてみればよかったな。





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