ひとまわり、それ以上の恋
「娘にランジェリーのモデルなんて頼まないですよね」

 言い訳を探しながら、私は彼を見つめ返した。

「君がもしも娘だったら、頼みたいなって思うし、きっと断らないと思う」

「私は、そんなに理想の娘にはなれません」

「じゃあ、僕がなろうか。理想の父親に」

 会話の流れだって、分かってるけど。
 押し問答のようなものだって、分かってるけど。

 急に、どこかが痛くなった。
 どことも説明のつかない場所。

 私の胸の中が、ギュウっと苦しくなる。
 さっきから、ちょっとだけ感じていたことでもあるんだけど。
 私こそ、意識しすぎているんじゃないのかな。

 なんで哀しくなってくるんだろう。

 ポロリと涙が勝手に目尻から流れて、慌てて拭う。
 市ヶ谷さんが、見たことないぐらい、戸惑った顔をしていた。



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