ひとまわり、それ以上の恋

 副社長室へ見送ったあと、秘書課へ戻った私は、一番に、峰岸さんに目が行ってしまった。

 大人の仕事のデキる女性。美羽さんのほんわかしたやわらかい雰囲気ともまた別の、朗らかでソツがなく彼女になら安心して仕事を任せていられる、そんな凛とした彼女に見惚れる。

「あら、どうしたの。教育係からの指導待ちかしら? それとも私に用事?」
「いえ、ごめんなさい。声もかけずに……おはようございます」

「副社長とどう? 仲良くやっていけそうかしら」

 私に質問をしながらもパソコンから目を離さない。忙しいところ邪魔したりなんかして悪かったな、と後悔しながらも、これまで市ヶ谷さんについていた峰岸さんにどうしても確かめたいことがあった。

 社長と美羽さんが夫婦だということを知って、だからイコール峰岸さんと市ヶ谷さんが関係があるかというわけじゃなくても……これまでのこと凄く気になる。

 せめてどんな風に過ごしてきたか、ぐらいは聞いてもいいよね?

「峰岸さんは、副社長に、朝起こしにきてほしいとか言われたりすること……ありましたか?」

 それから、モデルになって欲しい、とか……そこまで出かかったけど、どうしても出て行かなかった。

 なんか市ヶ谷さんを裏切るみたいで、告げ口するみたいで落ち着かなくて。
< 43 / 139 >

この作品をシェア

pagetop