ひとまわり、それ以上の恋
 峰岸さんはようやくの方へくるっとチェアごと振り返って、興味深いような瞳で私を眺めた。

 まるで品定めするかのように頭のてっぺんからつま先まで視線が流れて、私はさっき丸まってしまった猫背をピンと伸ばさずにいられなくなる。

 ドキドキしながら待つと、彼女はノーと首を振った。

「とんでもない低血圧なのよ。電話ぐらいじゃ起きてくれない。ちょっと前まで不眠症だって言っていて、コーヒーをやめるように言ったの。そうそう、だから会議では、副社長だけ別メニューだから気をつけてね」

 峰岸さんはさくっとそれだけ言う。

「上司を気遣ってあげること。ケアしてあげることは必要なこと。美羽さんに言われなかった?」

 峰岸さんが微笑む。私はなんだか自分がすごく恥ずかしかった。

 大人の女性は一から百を言わなくても、察しなければいけないのに。こんなのは子供のやること。




< 44 / 139 >

この作品をシェア

pagetop