ひとまわり、それ以上の恋
「ごめんなさい。今ちょっと立ちくらみしただけ。大丈夫です。沢木さんがいないと、皆、寂しくなっちゃいますよ」

「いいよ。こっから先は同期同士の方が盛り上がるだろうし。家どのへん?」

「南麻布に。タクシーでいきます」

「じゃあ、一緒に乗らせて。あぁ、送り狼にはならないから大丈夫。さっき釘さされたばっかりだし、安心していいよ」

 狼こそそういう優しい言葉で近づくんじゃないのかな、なんて思いながらも、彼の強引さには負けた。

 それから兄を知っている人、というのが安心材料でもあったかもしれない。一番はお酒で朦朧としているせいかも。

 私が黙りこんでいると沢木さんは気遣ってくれたのか、あれこれ話しかけてくることはしなかった。

 急いで――だなんて、なんかあったのかな。まさか市ヶ谷さんの方こそ具合悪くなって……とか。
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