ひとまわり、それ以上の恋

「着いたみたいだけど。大丈夫?」

「はい。平気です。ありがとうございました」

 お財布を出そうとすると代わりにハイと名刺を差し出された。

「え?」

「お金はいいから、今度、二人でゆっくり話をしようよ。お昼のときでもいいよ」

 じゃあ、とタクシーに乗り込んで。私はポツンと取り残されてしまった。

「あ、あのっ」

 言い逃げされてしまった。にこやかに手を振られて、私はタクシーを見送るしかなくなって……。

 お金……お礼しなくちゃいけないじゃない。もしかしたらそういうこと。慣れてるんだろうな。送り狼じゃなかったけど……。
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