ひとまわり、それ以上の恋
 兄は、いうなら父代わりだ。母が女手一つで兄妹を育ててくれた……というよりも、兄が妹である私の面倒を見てくれていたのだった。兄も兄なりに、父代わりという使命を感じているのだろう。

 恋をする暇がないというよりも、相手にされていないんだから、どうしようもない。だから兄が心配するようなことなど起きるはずがない。

 せめて家事をしよう、と意気込み、働いてる母の代わりに期間限定のハウスキーパーをかって出れば、母は兄とは反対で私に恋人がいないことを心配しているようだった。

「ちょっと外に出てきなさいよ」と母にまで言われ、私は渋々と出無精の自分を叩きだす。

 とりあえず電車に乗って表参道まで出てきた。銀行の青いATMが目に入って私は思い出す。

 初めてのお給料、まだ確認していないんだった。一旦足を向けて……やめた。連休明けに明細をもらって、ちゃんとお父さんに報告してからにしよう。

 次にプライマリーが出店しているランジェリーのカジュアルショップ『グラマラス』が目に止まり、ふらりと誘われるように店内に入った。

「いらっしゃいませ」
 にこやかに店員さんが出迎える。私はぶらりと店内をまわってみた。

「サイズも測れますので」と声をかけられて、私はカバンから名刺を取り出して、店員さんに挨拶をすることにした。
< 95 / 139 >

この作品をシェア

pagetop