蒼穹の誘惑
後ろを向かされ、再度腕をロープで縛られたかと思うと、パシャという音が頭上から降ってきた。

はっと顔を上げれば、大男がまた下衆いた笑いを浮かべ、カメラを持って立っていた。

「……っ……」

何のために写真なんかと睨むと、仁科は目を見開いて驚いで見せる。

「まだ睨む気力があるとはな……まぁ、もう少しだけ大人しくしていてくれ」

仁科は、元の表情に戻るとみずきがサインした書類を手に、大男を連れて部屋を出て行った。

バタンとドアが閉められた瞬間、みずきの瞳にどっと涙が滲んだ。

初めて体験する恐怖。それは、ストーカーの比ではなかった。

人としての感情を欠如したあの男。

もし、依頼主がみずきを殺せと言われれば、簡単に殺すのだろう。

溢れてくる涙にみずきは歯を食いしばって耐えた。

男たちの目的も、いつ解放されるかもわからない。最早みずきは、精神的にも体力的にも限界に来ていた。




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