蒼穹の誘惑
浅野が関わっていたことは、かなりショックだった。だが、それ以上に、彼が依頼主ではないという直感が、更にみずきを不安にさせた。


(誰かが裏で糸を引いているの?)


一瞬、高宮の名前がふっと浮かび、みずきは慌ててその可能性を否定した。

いや、否定したかった。

高宮は、父を憎み、そしてその憎しみの対象を失った今、『長谷川』に矛先を変えた。

みずきを社長の座から引きずり落ろすだけでは、物足りなかったのだろうか。

確かに、父がしたことを、高宮の家族が強いられた犠牲を考えると、そんなもので足りうるはずがない。

頭の中でどんなに否定しても、冷静に考えると、高宮が関わっている可能性が現実味を帯びてくる。

涙が頬を伝い、ポツリと落ち、床に小さな染みを作る。

何とかここから抜け出すことを考えなければと思うが、脳裏に浮かぶのは、高宮の蒼く光るあの双眸。

最後にみずきの名を呼ぶ彼の声は、どこか切なく優しかった。

こんな時でも、愛しいという気持ちしか溢れてこない。

「蒼冴……」

みずきは、堅く冷たい床に身体を預け、何度もその名前を心の中で反芻した。



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