蒼穹の誘惑
浅野との商談後は、みずきは想像以上の巡るましい日々を送っていた。

みずきの叔父の副社長を初め、取締役陣は一斉にこの新事業の提携について難色を示した。


元々長谷川は高度経済成長時から半導体メーカーとして時代を躍進してきた。

会社の成長と共に様々な分野に手を広げ、一部の家電製品の開発・製造やソフト開発もその一つであった。

従来その焦点を大衆消費者より企業に絞り、性能の高い商品を提供することが、先代のモットーだった。

ソフト開発部門では、組織のプロセスやデータフローのニーズに対応した、財務管理、顧客関係管理、サプライチェーン・マネジメントなど、業務系システムソフトウェアや、携帯電話ネットワークや防災システム、工場の生産ラインシステムなどの通信制御ソフトウェア開発を主流とした。

だが、リーマンショック以降、半導体部門の業績も思わしくなく、日本経済と共に成長は低迷している。企業ソフトウェアの売上げも落込み、大衆向けに転向せざるを得なくなった。

ライバル企業が次々と新しく新事業を展開していく中、長谷川はインフォメーションワーカーソフトウェアやコンテンツアクセスソフトウェアの開発にも力を入れるが、業績は中々伸びない。

それは、やはり古くから、専門職を対象としてきた長谷川の体質が原因だった。難しく、複雑すぎるのだ。



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