メビウス
朝陽
何時もと同じ様な朝を、何時もと同じ様に迎えた筈だった。カ−テンの隙間から零れて来る朝陽は、智久の目をチラチラと射していた。天井に目をやりながら体制を整えると、重い身体を起こしてベッドから起き出した。 寝室のドアを開けると、隣はキッチンとリビングになっていた。身体は鈍りの様に重かった。気怠い足取りでキッチンに向かい、冷蔵庫を開けた。中から牛乳のパックを取り出し、グラスにも注がずにそのまま口を付けて飲んだ。半分程残っていた牛乳は、全部智久の胃の中へと流れ込んでいった。 「ふぅ−」と一つ溜息を付きながら寝室へ戻り、部屋のカ−テンを一気に開けた。そしてまた一つ溜息を付いた。 ここの所、物事が上手く運ばない事があった。その原因は女である。しかも姿が見えない。メールだけのやり取りだった。住んで居る所はだいたいは分かってはいたが、それも定かでは無かった。そのメールの中では、アドレスも携帯番号も相手に伝わらない、実に不便な世界だった。 智久が入っていたサイトはセキュリティが強いのだ。個人情報が一切伝わらない。メールの中で約束を交わし、会わなければ解決のめどが立たなかった。正に出会い系である。 その女は咲子と名乗った。年は48歳で、智久の倍の年齢だった。彼女のプロフィールの中に、その咲子を選んだ決定的な理由が一つだけあった。融資求む!の記載があったからである。
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