道化師と菫の花/GIADOOLⅣ
1.酒場

アルク


 シンシンと、静かに雪が降っていた。


 雪には、音を吸収する効果がある。


 だから、こんな冬の夜はとてもとても静かな夜だった。


 そんな夜。


 スラムの端にある小さな小さなバー。


 必要以上の電球をおいてなく、月明かりと、ジャズだけが響き渡る小さな店。


「・・・・また、こんな季節か・・・。」


 一人で、店を切り盛りしている、女マスターが訪れた一人の客を見て、そんな感想を漏らす。


「悪いな・・・ココしか、来る場所を知らなくてね・・・。」


 それだけ口にすると、客・・・アルクは、いつもの奥から二番目のカウンター席に腰をつける。


「別に、かまいやしないよ。ウィスキーでいいんだろう?」


 注文はとらない。


 毎年、この日にしか来ない、この客はそれ以外飲んだりはしない。


「あぁ・・・。」


 タバコに火をつけて、アルクは一息つける。


 そして、さっそく差し出されたウィスキーを一口。


 相変わらず、苦い味だ。


 だけど・・・今日だけは、この味がとてもうまい・・・。


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