月とバイオリン
 手すりに彫り込まれている模様を、なぞるようにして進む。

連続している花の形、光と影の対比上の問題から、その名を知ることは難しい。

昼間の光の中で見るものとは、違うものをきっと見ている。

月の支配する、夜の世界。

映るものの中、影によるまやかしがある。


 踊り場の窓を透し、月は照らしていた。

街灯のまぁるい小さな光と、色と角度が違っている。


 月に宿る女神の祝福は、すでに旅立った家族のために使ってしまっていた。けれど、


「もう一人くらい、ついでに見ててね」


自分のために。

シェリーは呪(まじな)いの言葉を唇にのせる。


 頑張らなくては、ならないのだから。


階段を先に進む自分の影に、手を引かれる思いだった。

こんな時はいつも、一人ではない自分を感じている。

正体はわからない。

これもまた自分なのかもしれない。
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