月とバイオリン
ソファの上に蓋を閉めて置かれている黒い皮の箱を抱えるように持ち上げて、それも丁寧に床に下ろした。

他に置けそうな場所は見つけられなかったのだ。

気付き、テーブルの下から転がっている弓を拾い上げる。

そしてゆっくりと立ち上がり、ヴァイオリンと並べて置いて、――勢いをつけてくるりと振り返る。

彼が『彼女』を、ソファに寝かしているところだった。

「天使かしら。空から登場するなんて」


 まだ信じられない思いが消えない。

もう一度見た時には消えているかもしれないと、ゆっくりと動いてみたのだ。

消えるわけもなく、彼女は存在を続けていた。

もちろん。
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