月とバイオリン
……「人間だよ」


 ついて出た言葉に返事が返った。

囁くようなその声に合わせ、シェリーは足音を立てないように、彼の横に座り込んだ。

ひざまずいている彼は、あまり動揺していないように見える。

一人で慌て騒いでしまったようで、恥ずかしいような気持ちだ。

あろうことか。そして落ち着きを取り戻せば、持ち前の好奇心が主張し出した。

体を伸ばして、天使ではない彼女の顔を覗き込み、

「リース」


 シェリーのつぶやきを受け、彼は驚いた顔を上げた。

「えぇっ? リース?! どうして?!」

「この子を知っているのか?」

「大丈夫なの? リース、ねぇ、大丈夫?」


 あわてて握った手はあたたかく、顔を近づければ息遣いが聞こえる。

けれど開かない瞼に不安は消えず、シェリーは助けを求めて彼を見た。

彼は安心させるように頷いて見せ、

「気を失っているだけだ。大丈夫だよ。君の、……友達?」
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