久遠の花〜 the story of blood~【恋】
あまりにも普通に言われてしまい、少し呆気にとられてしまった。そのまま黙っていると、気遣ってか、相手のほうから話しかけてくれた。
「自分は、月神叶夜(つきがみきょうや)。これからよろしく」
「わ、私は……日向、美咲(ひなたみさき)です。よろしくお願いします」
名前を聞いても、やっぱりわからない。
どこかで倒れた時にお世話になった、というのがありそうな話だけど……考えても心当たりのない私は、なんとも言えない気持ちのまま、月神君を見つめていた。
「――そんなに見られたら、さすがに恥ずかしいな」
「! ご、ごめんなさい。……別に、変な意味とかなくて」
「大丈夫。――その内、思い出すから」
「? あのう……せめて、どこで会ったか教えてほしいんですけど」
ゆっくりと、疑問に思っていることを口にした。
それに一瞬、月神君の表情が変る。ふんわりとした雰囲気だったのが、ほんの一瞬だけ、別人のように変わった気がした。
「――気付かない、か」
「? なにか、言いました?」
「――いや、何も」
「? あのう。本当にどこでっ」
途端、授業開始を告げるチャイムが、私の言葉をかき消す。
聞くタイミングを逃してしまった私は、ひとまず、これから始まる授業に集中することにした。