久遠の花〜 the story of blood~【恋】


 呼び捨てって言われても……。

 見た目、私より年上に見える。

 いきなりそんなことはできないし、なによりまだ、少年を信用しきれないでいた。


「呼び捨ては、ちょっと……。私より年上ですよね? せめて、「さん」付けでないと」

「年上なのは合ってるけど、な~んかよそよそしいんだよね。ま、美咲ちゃんがそれで呼びやすいならイイけどね」


 私のことをなぜ知っているのか気になるけど、少年が――もとい、雅さんがあまりにも普通に接してくるから、もういいかなと、諦めにも似た感情がわいていた。

 とりあえず今は、名前のことよりも、核心をついたことを聞くべきだろう。


「……あのう」


 問いかける私に、雅さんは視線をこちらに向け、ん? と小さく首を傾げる。


「今日会いに来たのは……襲うため、ですか?」

「はははっ! ストレートだねぇ~。安心してよ、襲ったりしないから。オレが美咲ちゃんに、興味があるんだよ」


 笑顔で言われ、私は少し呆れたようにため息をついてしまった。

 デートの理由にはなってる気がするけど……なんだか納得いかない。


「別に……私に面白いところはないですよ?」

「オレからしたらあるんだよ。例えば――」


 手にした缶を置くと、すっと耳元に顔を近付けるなり、


「オレと同じ病気、とかね」


 と、なんとも艶のある声でささやいた。

 恥ずかしさと驚きで思わず後退すれば、さっきまでの雰囲気とは一変。雅さんが、あの夜のように大人びて見えた。


「お、同じ、って……」

「ウソじゃないよ。ま、急に言っても信じられないだろうけど」


 そう言った後の雅さんは、また明るい雰囲気に戻っていた。

 もし……もし本当に同じなら、私も、二人のように動けるの?

 確かに私は、二人に興味をもってる。あそこまでの身体能力が欲しいってわけじゃないけど、ちょっと長く走れるぐらいの体力は欲しいと、そう思った。
< 39 / 296 >

この作品をシェア

pagetop