久遠の花〜blood rose~雅ルート

 きっと……見なくちゃいけないんだよね。
 前に、女の人が言っていたことを思い出す。これは現実で、私はそれを見なくちゃいけないんだって。
 意を決し、地下へと続く階段を下りていく。すると――。



「?――――っ!?」



 明かりが見えたことに、ほっとしたのも束の間。



 ……なに、これ。



 その光景に、目を疑った。
 鉄格子の中で鎖に繋がれている人。幾つもの管に繋がれ、もはや生きているとは言えないような状態の人。別な鉄格子の中を見れば、血を抜かれているのか、青ざめ痩せこけた人。そして狂ったように、もがき苦しむ人がいた。
 目の前の光景が衝撃過ぎて、私はしばらく、その場に固まっていた。
 時々、鉄格子の中から手や顔を覗かせる人がいたけど、周りの人は、私の存在に気付いていないようで。やっぱり私が見えるのは、あの時見た女の人だけらしい。



「――産まれたようだな」



 別の部屋から、声が聞こえる。
 そこへ行く道は綺麗で、明らかにこことは違っていた。
 ……普通の人が、いるの?
 少なくとも、ここより向こうは普通の場所だろうと思い、なかなか動かない足に命令し、歩こうとする。
 でも、私のことが見えないとわかっていても、やっぱり怖さは消えなくて……。万が一の注意をしながら、声が聞こえた部屋へ、ゆっくりと足を運んだ。



「――ようやく成功したか」



 白衣を着た男性は、自分の目の前に運ばれた赤ん坊を見て、怪しく微笑む。それは父親というよりも、私には何か、違うものの見方をしているようにしか見えなかった。

「すぐに薬を試せ。副作用が出るなら、そのまま処分して構わない」

 な、何考えてるの!?
 無駄だってわかってる。でも、文句を言わずにはいられなくて、私は男性に、届かぬ声で叫んでいた。
 処分だなんて、そんなことが許されていいわけない!!
 別室へ連れて行かれる赤ん坊。急いで後を追ってみたけど、目の前が歪み始めていく。せめて赤ん坊を見つけるまでは! と走っていたものの――結局、見つけられないまま。私の視界は、また閉ざされてしまった。
 ――気が付くと、そこはさっきまでいた建物の一階。
 周りを見渡せば、多少老朽が進んでいるものの、さっきの場所と同じということが見てわかる。
 私は再び、地下へと走った。あの赤ん坊がどうなったのか、どうしても気になってしかたがなかった。



「――次は、別の薬を使う」



 さっきと同じ声が、奥の部屋から聞こえた。
 そっと中をうかがうと――そこには、十歳ぐらいの少年が寝かされていた。周りには数人の男性たちが、何やら作業をしている。近付いて見ると、一人は少年から血を抜き、また一人は、何か薬のような物を注射していた。
 少年の体を固定すると、中にいた人たちは部屋を出て行く。その隙に、私は少年の顔を覗き込んだ。その顔は、とても無表情で。まるで死んでいるかのように、覇気が感じられなかった。
 虚ろな瞳には、なにが映っているのか……。どこか遠くを見たまま、少年は、真上ばかりを見ていた。
 あれ。この子って――?
 見覚えがある、と、そんな気がした。
 どこで見たんだっけ? 確か――。
 しばらく考え込んでいると、以前見た夢のことを思い出した。歳の頃も、顔も似ているような気がする。だとしたら――これからこの子は、また、人を殺し続けるの?
 よく見れば、体には痛々しい傷が幾つもある。きっと、今まで色んなことをされたんだろう。少年の体には、生々しい傷が幾つも目に留まった。
 なんで、こんな光景ばっかり……。
 私にこれを見せている何かがあるなら、それを恨まずにはいられなかった。勝手に見えてしまうとも言われたけど、どうして自分にそんなことができるのか、理由もわからないまま見るにはとても悲し過ぎる。せめて理由だけでも知りたいと、そう願わずにはいられなかった。
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