久遠の花〜blood rose~雅ルート

 ――――痛かった、よね。
 そっと、少年の手に触れる。少年に私が見えてるかわからないけど、少しでも、こうしてあげたかった。



「――あの薬にも耐えたか」



 さっきの男性たちが、嬉しそうな表情を浮かべ部屋に戻って来た。

「これならもう、次の段階に進めるな。――人格形成に取り掛かるぞ」

 男性がそう言うと、周りにいた者たちは、少年を寝かせているベッドごと、別の場所へ移動させようとする。それにもついて行こうとしたけど……再び、目の前が歪み始めてしまった。時間切れだとわかった私は、行けるとこまで行こうと、少年のそばに寄り添う。
 ――すると、私が見えるのだろうか。少年と一瞬、目が合った気がした。それが嬉しくて、思わず安堵の表情を浮かべれば、少年は少しだけ、笑い返してくれたように思えた。

 *****



「――――戦いは、やはり好みませんね」



 目の前の敵を排除すると、上条は重いため息をついた。

「さて――日向さん」

 振り向き、後ろにいる美咲に呼びかける。だが反応はなく、ただじっと、上条を見つめるばかりだった。

「――今は、眠って下さい」

 悲しみを含んだ声。
 今起きていることは、上条にとっては喜ばしいことだと言うのに。それを、素直に喜ぶことは出来なかった。

「アナタはまだ、時期を迎えていません。ですから」

 そっと、片手で美咲の両目を覆う。そして――。



「今夜のことは――忘れなさい」



 やわらかい、軽やかな声。その声と同時に、上条は美咲の目蓋を閉じさせた。
 すると、美咲の体は前へと倒れる。それを受け止める上条は、なんとも複雑な表情をしていた。

「薄々考えてはいましたが……こうして目の前に現れるなど」

 驚きましたね、とため息をもらす。

「本当に、アナタには驚かされます」

 優しく、美咲の頭を撫でる。眠る姿を眺めていれば、

「一体、何があったんですか!?」

 頭上から、声が聞こえた。見上げれば、叶夜と雅の姿が近付いて来ていた。

「ここらにまだ変な雰囲気があるし――って、リヒトさん!目、戻して戻して!!」

 まだ戦闘体勢の上条に、雅は言う。
 今の上条の力は強く、目を見ただけでも気力を持って行かれそうになるほどだった。

「これは失礼。――まだ、気が抜けなかったもので」

 いつもの濃い茶色の瞳へ戻すと、上条は再び二人に視線を向ける。

「念の為、この辺りを警戒していて下さい。人に害を与えるようなら、それなりの処置を」

 頷く二人。すぐさまこの場を離れたのを確認すると、上条は美咲を運ぼうと立ち上がる。だが上条が向かったのは病室ではなく――自分の自宅。このまま病室に一人残すのは危険過ぎる。かと言って、薬を絶ってる今、二人に任せるのも危険。だから上条は、結界を施してある自宅で、美咲を休ませることに決めた。
< 70 / 82 >

この作品をシェア

pagetop