久遠の花〜 the story of blood~【恋】


「それより……もう、出かけるんですよね?」

「そうだよ。それじゃあ行こうか」


 そう言って、雅さんは私に手を差し伸べ、


「ご案内しますよ。―――お姫様」


 再会した時のように、悪戯っぽい笑みを見せた。


「ふふっ。またそれですか?」


そう思いながらも、その手を取ろうとした瞬間。


「ん? どうかした?」


 私は、その手を止めた。

 もしかしたら、あの時みたいに抱きしめられるんじゃないって、頭を過ったから。

 自分で起き上がると、雅さんは残念そうな顔をしていた。


「せっかく握れると思ったのに~。ま、いっか。これからもっとくっつけるわけだし」


 そう言って、雅さんはさっと私を抱える。


「い、いきなりやめて下さいよ!」

「大きな声出したら、家の人にバレちゃうよ?」


 悪戯っぽい笑みを浮かべながら、雅さんはどこか勝ち誇ったような顔をしていた。

 慌てて自分の口を塞ぎ、私は無言で雅さんを睨む。


「そんな顔しないでよ。いきなりしたのは謝るからさ」

「お願いですから、一言断って下さいよ」

「ん~、そうだねぇ~」


 そう言いながら、雅さんは窓際へと歩き出す。

 もう家を出るんだと思った私は、自然と雅さんの服を掴んでいた。


「じゃあ、敬語やめてくれたらいいよ」


 満面の笑みで言うその表情が、とても綺麗で……ちょうど月に照らされた顔は、目を奪われるほどだった。


「……わ、わかりました。――じゃあ、約束してよ?」

「うん、約束ね! もぉ~今の美咲ちゃんカワイイ!」

「きゃっ!?」


 腕に力を込められ、私は雅さんの胸に押し付けられた。かなりの密着具合に、私は気が気でなくて。心臓は一気に跳ね上がり、息ができないくらいに感じられた。


「も、もう! 言ったそばから!」

「はははっ。ごめんごめん。あんまりカワイイから、ついね」


 か、可愛いからって……。

 思わずため息が出てしまった。

 その時ふと、雅さんと洞窟にいたことを思い出した。こうやって触れるのは、確か、力を回復させる為。だから、雅さんが私にたくさん触れるのは――それだけ力が足りないか、病気のせいじゃないかと。
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