久遠の花〜 the story of blood~【恋】
「雅さんが私に触れるのって……力が足りないから、ですか?」
「―――どうだろうね?」
聞こえたのは、なんとも複雑そうな声。
いつもの雅さんなら、笑いながら冗談を言うのに……。
この時の声が、公園から帰る時の声に重なった。どこか憂いを含んだ声に、理由もわからないまま、私は胸が締め付けられていくのを感じた。
「さぁ、早く行こうか。待たせると悪いからね」
そう言った時にはもう、雅さんはまたいつもの笑顔に戻っていた。
もしかしたら……私には言えないなにかがあるのかなぁ。
私も、力になれればいいのに。
そんなことを思いながら、手に、力を込めた。
「ここに、私を呼んでる人が?」
連れて来られたのは、普通のマンション。周りはとても静かで、ちらほら自然がある住みやすそうな場所だった。
「そうだよ。ここの七階」
エレベーターに乗り、私は雅さんの後を付いて行った。他に乗り込む人もなく、すんなりと七階へ着いた途端。
「―――――?」
不意に、体に違和感を覚えた。
嫌な感覚ではないけど、どこかで感じたことのあるような……なんとも不思議な気がした。
「―――美咲ちゃん?」
ついてこない私に、雅さんは心配そうに声をかける。
「ごめんなさい。ぼーっとしてしまって……でも、大丈夫ですから」
「それならいいけど。ここの一番奥が、目的の部屋だよ」
部屋の前に立つと、雅さんはインターホンを鳴らす。しばらくして、男の人の声がした。それに雅さんが答えると、ドアがゆっくりと開いた。
「無事に到着したようで、何よりです」
出てきた人物を見て、私は驚いた。それは、私がよく見知った人物で、
「先生……ですよね?」
病院で私の担当をしてくれている、桐谷光(きりたにひかる)先生だった。