暁に消え逝く星

 リュマの家で見つけた姉からの手紙で、どこの貴族かはわかっていたので、貯水槽から西へと向かった。
 先ほどまでの寒さが嘘のように、地上に近づくほど暖かくなる。
 記憶通りに進むと、鉄柵に行き止まる。
 錠が下りているように見えるが、ここも、容易く開いた。
 そして、男はようやく地上へと出た。
 出た場所は、ちょうど目当ての貴族の家の裏庭に面する塀の前だった。
 水路の通路へと降りる階段がついている。
 ここに降りて下働きの女達が簡単な洗い物をするのだろう。
 階段の近くには見張りのいない、使用人のための通用門がある。
 日が落ちてだいぶ経つ。
 雲が夜空を遮るように流れている。
 今宵の月は下弦の月だ。
 東の空にはすでに月がのぼっている。
 真夜中を過ぎた頃だろう。
 男は通用門の柱と門扉の横板を足がかりに、軽やかに塀を登り、中へと入り込んだ。


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