暁に消え逝く星
自分は皇国の滅びを見なかった。
宮の外のことも何一つ知らなかった。
だから、未だに信じられないのだ。
あの、麗しの皇宮が今はもうないなど。
あの父が、弟妹達がいないなど。
「なぜ、父はエギルに私を託したのだろう」
小さな呟きに、ウルファンナは怪訝そうに、それでも言を継ぐ。
「私には分かりかねますが――」
「許す、続けよ」
「陛下におかれましては、皇子様をお助けしたかったのではないかと」
言われて、イルグレンは素直に驚いた。
そのような言葉が返ってくると思わなかったのだ。
「なぜそのように思うのだ」
「陛下と宰相閣下は幼年来の御学友と聞き及んでおります。その陛下が宰相閣下に託されたのは、皇子様ただお一人です。そして、他のどの皇子様も、皇女様も、生きておいでではございません」
暁の皇国は、その歴史的血統の誉れ故に、皇族を他国へ出すということはなかった。
だから、自分がサマルウェアに出されるということは、例外中の例外だったのだ。
無論、これが、純粋な血統であればあり得なかった。
身分の低い、踊り子の血をひいた皇子は彼らにとっては忌避すべきものだった。
だからこそ、十七年間、命を狙われ続けてきた。
下賤の血など純粋な血統に相応しくなかったからだ。
厄介払いできるのなら、願ってもないことだった。
それが結果的に自分を助けたのだ。