暁に消え逝く星
第二章

砂漠への旅


 乾いた赤土が風に舞って、視界をかすませる。
 ごつごつとした岩場の隙間には赤い砂塵が通り抜け、虚ろな音をたてている。
 寂寥とした光景だった。
 草木もない、どこまでも死に絶えた乾いた世界。
 女は馬上からこの乾いた景色をじっと見つめていた。
 馬の蹄が凹凸の多い岩場をゆっくりと抜けていく。
 背後では、まばらな蹄の音と男達の時折の話し声が重なり合って途絶えることがない。
「どうした?」
 自分の後ろで手綱を操る男が問う。
「砂漠と言うから、一面の砂かと思っていたのよ」
 男は得心したように小さく笑った。
「砂漠を旅したことのない者はよくそう言うな。だが、砂漠と呼ばれる大半のところはこんな風な景色ばかりだ。お前の言う砂の海はもっと西の、それこそ地図でいうなら中央の部分だ。旅も一番きつくなる」
「砂漠を渡るのには何日かかるの?」
「急げば二月もかからん。クナに乗れば、移動は遅くなるが、その分馬で急いでいるからな」
 今は6月を中ほど過ぎた。
 急がねば真夏に砂漠を渡ることになる。
 砂漠を旅したことのない女にもわかる。真夏の砂漠越えが、どれほど過酷かは。
 今はまだ、砂漠のほんのさわりだ。
 このような乾いた、まだ足場のしっかりしている大地では馬を使える。
 徐々に砂地となっていくにつれて、砂漠では、クナと呼ばれる乾燥地帯に強い動物に乗り換える。
 クナは1日に90ガルナも歩くといわれ、その間の水分補給もほとんど必要ない。
 やわらかく波打つ背中は厚い脂肪で覆われ直射熱による急激な体温の上昇を防ぐため、昼間の高い気温に対しても持久力が強いのだ。
 また、夜の打って変わった気温の変化にも耐えうる順応性により、夜の寒さの中での移動も可能だった。だからこそ、砂漠を旅するものは必ずクナに乗る。
 女は、クナを見たことはないが、馬のような動物だということは知っていた。
 砂漠越えどころか、旅さえしたことのない女には、何もかもが見知らぬものばかりだった。
「先を急ぐ。しがみついていろ」
 ごつごつとした岩場の間を抜け、地面が比較的なだらかになった頃、男が言った。
 女は言われたとおり、前かがみになり、馬のたてがみにしがみついた。
 手綱を操る男が馬の脇腹を蹴った。
 それを合図に、先頭を走る自分達の馬に続いて、後ろの男衆の乗る馬の速度も一気に変わった。
 激しい揺れに女は馬から落ちないよう腕と脚で、必死にしがみついていた。


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