暁に消え逝く星

 扉が開いて、涙目のウルファンナが駆け込んでくる。
「旦那様、イルグレン様がいらっしゃいません!!」
 エギルディウスは片手を挙げた。
「良いのだ。ファンナ、これからは、皇子は女戦士に剣の稽古をつけてもらうことになる。準備はお前が整えて差し上げろ」
「よ、よろしいのですか? このようなときにイルグレン様を外にお出しになるなど」
「馬車には身代わりをたてる。このようなときのために身代わりとなる者を護衛の中に入れておいたのだ。ファレスを呼んで来い」
「は、はい」
 ウルファンナは慌てて出て行く。
「ファレスが来たら、三人で今後のことを話し合いたいのだが、よいか?」
「いいですよ、そのつもりで来ましたから」
「すまぬな。だが、私はそなた以上に強く、信頼できる戦士を知らぬのだ。昔のよしみで、最後の我侭をきいてくれ」
「エギル様こそ、大丈夫ですか?」
「何がだ?」
「お疲れのように見えますよ」
「老いただけだ。そなたに出会った頃とは違う。二十年も経った。私はもう、年老いたのだ――」
「エギル様――」
「それでも、行かねばならぬ。最後の主命だ。生き残った者を全て、西へ連れて行かねばならぬ」




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