強引な次期社長の熱烈プロポーズ
「それとも、何?」

言葉に詰まる百合香に体を向き合わせ、今度は左腕と顎に手が添えられる。
さっきよりもずっと近い距離で、柳瀬の唇が目の前にある。

そしてあのフレグランスの香り。


「俺は絶対“安全圏”とでも思ってた?」


試すような唇と瞳。
足が竦んで…そういう訳じゃなかった。
だけど拒まずに柳瀬と向き合っているのは、


(きっと彼のこの吸い込まれる漆黒の綺麗な瞳――――
この真っ直ぐな瞳からは目を逸らせない。)


「…んっ…」


そのまま柳瀬の睫毛がその瞳を隠し、薄い唇を百合香の唇に被せたのはスローモーションに見えていた筈なのに、百合香は微動だにせずそれを受け入れていた。

一度、触れるか触れないかの距離に唇を戻し、すぐにまたその距離はなくなる。

口内を侵すその舌は百合香の思考回路を停止させる―――


「ふ…っ…」


柳瀬がゆっくりと顔を離して百合香の唇を指でなぞると、


「昨日の分、確かに貰ったよ。」


そう言って再び扉を開けてエレベーターを降りて行ってしまった。
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