強引な次期社長の熱烈プロポーズ
カウンター内で商品の万年筆を洗浄している際に、先程途中まで接客をし、その後1階にも品だしをしにいった美雪が戻ってきた。

「お疲れ様です。さっきの方は何か選ばれました?」

にこやかに美雪は百合香に聞いた。
百合香は美雪が万年筆を勧めていたのを思いだし、言いづらそうに答えた。


「あ、と…他社のですけど。ボールペンを」
「ええ?ボールペン?」
「とても気に入られて…」
「あの方は万年筆の方が合っていた気がしたのに」


美雪は半分溜め息混じりにそういうと、オーシャンのショーケースを見た。
百合香は悪いことをしたわけではなかったが、返す言葉が思い付かなくて無言になった。

「私なら“一本”を選んで差し上げられたと思うわ」

美雪が百合香に聞こえるように言って在庫を数え始めた。


そんなことを言ったって。
結果あんなに満足して帰って行ったのだから十分にお客様に応えたはず。
いくらこちらがいいと思ったところで相手も同じだとは限らないのに。
それとも阿部さんなら、お客様にもそう思わせることが出来ると言うのだろうか。

< 273 / 610 >

この作品をシェア

pagetop