強引な次期社長の熱烈プロポーズ
百合香は手を止め万年筆一点を見つめ、唇を噛んだ。


「あ、柳瀬さん!」


美雪の『柳瀬』という言葉で百合香はハッとして視線をそのままに、耳を澄ました。

「明日からの分、発注書流しておきましたので」「ああ、すみません」
「いいえ!今夜は残業出来ないでしょうから」

美雪がカウンターに入ってきた柳瀬に声を少し高くして話し掛けたのに対し、至って通常通りに対応する柳瀬。
美雪の方を一瞬だけ見た後は、百合香の横に立って百合香を見た。

百合香がその影と視線に気がつき顔をあげる。


「ずっと同じお客様についてたんだって?」
「え…はい」
「さっきその方が随分喜んで帰って行ったよ。君の名前も聞かれたくらい」
「ほ、本当ですか!」


百合香は先程美雪に言われた事を引きずっていたのを忘れ、照れたようにはにかみながら柳瀬を見た。
また、それに対して柳瀬も百合香を優しい目で見つめ返していた。

美雪が見て何かを思うことは勿論想定済みだが、柳瀬はわかっていてそういう視線を百合香に送っていた。

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