強引な次期社長の熱烈プロポーズ
タクシーを降りると店の門の前に美雪が立っていた。

「お疲れ様です。どうでした?」
「ええ、笹森さんのおかげで充実してました」
「いやいや、そんな。僕はただふらふらしてただけで」
「ふふ。良かったです。どうぞ中へ。金山と七重が柳瀬さんをお待ちですよ」

そう美雪に促されて、開けられた扉をくぐると下町風の店内に、優しそうな女将さんと、同じく人情味溢れた主人が声を掛けてきた。


「いらっしゃい!金山さんのお連れ様でしょう?ようこそいらっしゃいました」
「中で金山さんが待ってるよ!サービスすっからね!」


二人の言ってることを聞いてわかるのは金山が常連で、よくしてくれるということ。
そして案内された小上がりは6席ある部屋。その部屋の角のテーブルに金山と七重が煙草をふかして待っていて金山が手をあげ声を発した。


「おう!柳瀬くん!お疲れ!」
「お疲れ様です。七重です。覚えてますか?」
「はい。その節はお世話になりました」
「すっかり副店長ですね!」


続けて声を掛けてきたのは七重《ななえ》。
彼は金山よりは歳は下だが工場内で金山の次に技術を持った人間だ。

彼らは工場内で作業する傍ら全国を、金山に至っては世界を飛び回り、国境を越えて万年筆愛好家と関わりあっている。
いわば万年筆のドクターと言ったところか。

そんな金山はよく柳瀬の店にも出張クリニックを開催しにきてくれるが、七重は数える程しか東京には来ていなかった。
その頃柳瀬はまだまだ新入社員の頃だった。

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