彼女は幽霊〜八月〜

贈り物


愛奈が
ベランダで

花を育て始めた


「…大きくなれよ」

「花にはね…
話しかけてあげると
そのまま育つんだよ」


愛奈は笑っていう



八月三十一日

夏が終わる

愛奈が見えなくなって
声も聞こえない



「…愛奈…」

「なんで…言ってくれなかったんだ…」


また僕を置いてく?

一人にするのかい…

何も云わず

離れてくのかい…


愛奈が消えて
一か月……


十月二日になった


ベランダの花が
咲いた…


「愛奈…」


ピンク色の柔らかい

可愛い花…

愛奈みたいに…

綺麗な花…


愛奈…

愛奈…

愛してる…


秋風と共にどこからか
季節外れの風鈴の音


「裕太…」


愛奈の声…


「愛奈っ…」


「ごめんね…
いわずに行っちゃって」

愛奈が僕の前に立ってる


「愛奈…」

「裕太…好きだよ」

ずっと

ずっと

愛してる


僕は愛奈を抱き締めた

愛奈を抱き締められた

愛奈の体温が在る…

愛奈の柔らかさが在る


愛してる…

愛してる…


愛奈が夕焼けと共に
かすれてく

裕太…

裕太…

空に愛奈の声が響く…


チャリ…

愛奈のピアスが足下に

落ちている…


これと花が

愛奈からの贈り物…


僕の彼女は幽霊…

可愛い可愛い幽霊…



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