アジアン・プリンス
ティナの手がレイの指に触れ、彼女は軽くなぞるように指先にキスを繰り返す。ティナにはレイのすべてが愛しかった。レイが望むなら、どんな場所にもキスしたであろう。

そう、彼が望むなら……ティナの下で脈打つ高ぶりにすら口に寄せたはずだ。


「ティナ! ああ、ティナ。頼む、これ以上私を誘惑しないでくれ。私は神を裏切っても、この国は裏切れない。君を抱くことだけは、この命に懸けてできないのだ」

「キスを始めたのはあなたが先なのにっ!」


ティナはそう叫ぶとレイの瞳を間近で見つめた。

アズル・ブルーの瞳に、彼の花嫁には決してなれない金髪女の姿が映る。


(この髪を全部黒く染めて日本人になれるなら……ヘーゼルの瞳を潰しても構わないのに)


「誘惑なんてしないわ。わからないもの。あなたを誘惑したいけど、どうしたらいいのかわからない。どうしたらあなたが誘惑できるのか教えてちょうだい! 私は地獄に堕ちても構わないのに!」


緑と青の混じった瞳から、透明な雫が落ちる。

次から次へと流れ出て、それはアズウォルドの海に溶けていった。


「ティナ、もう手を離すんだ……そうでないと」

「ええいいわ。じゃあ先に離して。レイ、お願いあなたから離し」


涙に濡れるティナの頬を両手で挟み、レイは唇を重ねた。

そして、ティナの唇を舌先で割り込み、彼女の舌を探り当てる。それは互いの秘密の場所を見つけ出したかのような行為で……ふたりは何度も何度も唇を押し付け合い、求め合った。


< 106 / 293 >

この作品をシェア

pagetop