アジアン・プリンス
ティナは庭から直接会場に回って皇太子に直訴しようと考えた。

シーツで作った急ごしらえのロープにぶら下がり、どうにか降り始めたのだが……。

その直後、四苦八苦するティナの耳に届いたのは、アメリカ英語ともイギリス英語とも違った発音のイングリッシュだった。

ロープに足を掛けるのに、ドレスの裾を腰まで捲り上げている。およそ、レディとは言い難い格好だ。それを下から覗かれでもしたら……。


「みっ、見ないで! ――キャアッ!」


せめてドレスの裾を下ろそうとした瞬間、片腕ではバランスなど取れるはずもない。ティナは地球に引力があることを身を持って知った。


(ドレスはちゃんとなってるかしら? いくら評判は気にしないとはいえ、裾をめくったままなんて嫌だわ。……大した高さじゃないんだから、打撲くらいで済んでくれたらいいのだけど。……でも、下にいた人に怪我でもさせたらどうしよう)


ティナは色々考えを巡らせるのだが、なかなか地面に叩きつけられる気配がない。まさか、20階から落ちているわけではないのだ。こんなに考える時間があるのはおかしい。

そう思い、恐る恐る目を開けた。


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