アジアン・プリンス
(32)逃げるプリンス
「レ、レイ? 本当にレイなの? どうして、こんなところで何をしてるの?」


真夜中のベッドルーム。しかも、あれほど怒っていたレイが目の前にいる。だが、当惑するより、ティナはレイに会えたことのほうが嬉しかった。


「ティナ、よく聞いてくれ。私の力が及ばず、本当に申し訳ないと思っている。だが、できる限りのことはしたし、これからもするつもりだ。どうか、私を信じてついて来て欲しい」


上半身を起こしたティナの手を取り、レイは軽く手の甲に口づけた。その拍子に、上掛けはベッドから滑り落ちる。

一瞬レイの動きが止まり……。

でもすぐに、ベッドサイドの椅子に掛けてあった薄いガウンを、ティナの肩に羽織らせてくれた。

床に足を下ろし、このとき初めて、ティナは自分がキャミソール1枚であったことに気づく。しかも、下半身を包んでいるのは、レイの贈ってくれた白いシルクのみ。


「あの、レイ、私……」 

「ティナ、話をしている暇はない。すまないが、すぐに着替えて荷物を持ってついて来てくれ。いいね」


レイの声は同意を求めてはおらず、それは命令に近いものだった。


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