アジアン・プリンス
レイはプレジデントのリムジンに乗り、成田空港から赤坂の大使館に移動した。

思えば、この東京でも空港と大使館、在学中は大学の往復だけだった。東京は遊ぶ場所も多いと聞くが、公務で関係各省を回ったとき、東京タワーに案内されたくらいだ。


(女性が気に入る場所はどこだろう?)


そんなことを考え、レイがエスコートすべく頭に浮かべたのは、ティナだった。

ダンスの間中、ソーヤはティナに馴れ馴れしく話しかけていた。ソーヤを喜ばせるために、あんな背中の開いたイブニングドレスを見立てた訳ではない。

――では、何のために?

そう訊かれたら、レイはおそらく答えに窮するだろう。

キス以上のことをしてはいけない。いや、本来なら、キスもダメなのだ。その写真が撮られたからこそ、レイは急遽来日したのである。


アサギ島でのレイ皇太子とアメリカ人女性の問題行動――その証拠写真があり、目撃者のコメントまであるという。

これが明らかとなれば、ティナの生活は平穏ではいられなくなる。

彼女はレイ皇太子の恋人、果ては愛人としてパパラッチに追われることになるだろう。

兄王の妃にすることもできず、現状ではレイが責任を取ることもできない。滞在を延ばせば愛人説が濃くなり、アメリカに戻せば針のむしろに座らせることになる。

まさに四面楚歌だ。

しかも、現在起こっている問題はそれだけではなかった。


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