アジアン・プリンス
チカコが部屋を出て行き、バングルを返す返さないと揉めた気がする。そしてふいにレイに抱き寄せられ……。ティナは思い出すだけで、顔が熱くなった。


「な、なんとなくだけど……。黒髪の東洋人らしい顔立ちをしてたわ。まさか、彼女が?」


とてもそんな娘には見えなかった。ティナより若いだろう。おそらく……10代。


「彼女はアサギ島の人間でね。両親が事故で入院している。彼女ひとりの稼ぎで、家族6人を養い、治療費を捻出していたらしい。そこをチカコにつけ込まれた」


ティナは表情を変え、レイに噛みついた。


「なんてことなの!? ひどいわ!」

「わかっている。すまない。君に迷惑をかけたことは……」

「私じゃないわ、レイ! あの少女よ! まだ10代じゃないの?」

「ああ、確か16歳と聞いたが」

「まあ! アズウォルドはブルネイに匹敵するほど豊かな国なんでしょう? 無駄なエメラルドに百万ドルもかけるお金があるなら、どうしてそういった家族を救わないの? 信じられないわ!」


レイは一瞬驚き、そして相好を崩した。


「レイ、笑ってる場合じゃないわ。大人の汚い思惑に利用されて、きっと傷ついているわ。まさか、クビとか……。それとも、彼女は何か処罰されるの? そんなこと許されないわ!」


少女に同情してティナのボルテージは上がる一方だ。

そんな彼女をレイは――。


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