アジアン・プリンス
「私はこれでもカトリックの国の皇太子なんだが……」

「だったら何?」

「婚前交渉は禁止されている」


今のレイは、アサギ島のビーチに比べ、格段に余裕のある表情だ。

逆にティナのほうが、身の置き場に困っていた。


「じゃあ、何? レイ、あなたは童貞なの!?」


ティナはレイの腕の中に抱かれたまま、少し身体を離すとアズルブルーの瞳を睨んで言った。

レイは軽く肩をすくめ、苦笑いを浮かべる。


「どんな返事がお望みかな?」

「ほ、ほんとうのことよ」

「結構」


ひと言答えると、レイはティナを横抱きにした。


「きゃっ」


ティナは極々小さな悲鳴を上げる。レイは先ほどひとりで向かったキッチン横の通路に、今度はティナを抱えて足を踏み入れたのだった。


< 160 / 293 >

この作品をシェア

pagetop