アジアン・プリンス
(36)秘めやかな夜
ティナは浅い眠りの中にいた。

小鳥のさえずりが聞こえ、潮の香りがする。その間を縫って、ベーコンと卵を焼く匂いがした。


(半熟のサニーサイドアップが好みなのだけど……)


ぼんやりした頭で、ティナはそんなことを考えていた。


身体のあちこちが痛い。

ティナはベッドの中で手を伸ばした。だが、隣には誰も寝てはおらず。代わりに触れたのはボタンの全て弾け飛んだシャツと、肩紐の切れたキャミソールだった。


(あれは……夢ではなかったの?)

ゆっくりと、ティナは身体を起こした。

窓辺のカーテンが風にそよいでいる。吹き込むほど激しい風ではない。だがそれは、本島の王宮で感じた風より湿り気を帯びている。コテージが海に近いせいだろうか。

しっとりした風がティナの身体に残したレイの唇の跡をなぞり……金色の髪を後ろに靡かせた。



昨夜、レイはあっという間にティナの服を脱がせた。それも少し乱暴に。慣れているのか、不慣れなのか、ティナにはわかりかねる手つきだ。

ただ、彼が酷く怒っていたことは間違いない。

レイの唇が露わになった胸元に触れ、その熱い吐息を肌で感じた。ティナは期待と悦びに全身が打ち震える。だが、何ひとつ言葉にしようとしないレイに、不安を覚えたのも確かだった。


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