アジアン・プリンス
「これは、殿下のご命令ではありません。私の一存であなたをお迎えに上がりました」

「あなたの?」


唖然とするティナに、ニックは尚も言い募る。


「殿下は非常に困惑し、悩んでおられます。ご自分が、お父上と同じ道を選ぶということを。あなたをこのような場所に匿い、世間を欺く2重生活など……殿下には相応しくありません!」

「な、なにを言ってるの? 私と彼は」

「どうか本島に戻り、殿下に会われて下さい」


ティナにはニックの思惑がさっぱり理解できない。ニックはどうやら、レイとティナがコテージで深い仲になり、そのまま側室にでもすると思っているようだ。

だが、それならなぜ、レイと会わせようと考えるのだろう。レイと会わずにアメリカに戻れというのならわかるが……。


「あなたは私が殿下と会ったら、何かが変わると思ってるの?」

「はい。あなたがごく普通のアメリカ人女性であれば、適切な道を選んで下さると信じております」


レイは何もなかったことにして、ティナをアメリカに送り返すつもりでいる。

それがどうして、ニックはこんな誤解をしているのだろう? 側近の者に誤解を与えるようなことを、レイがしたのだろうか?


ティナは得体の知れない不安を感じていた。 


< 180 / 293 >

この作品をシェア

pagetop