アジアン・プリンス
そこは国賓用の宿泊室だった。

つい先日までティナが使っていた部屋だ。どうやら、今は別の利用者がいるらしい。それが日本からのお客様で、国賓であることは間違いない。

或いは国賓と同格の人間か――。


噴水の間は相変わらず涼しげなマイナスイオンで満たされている。大きく開かれた窓の向こうには、水色に輝く綺麗な空が見えた。

奥の寝室から人の話し声が聞こえる。

それがレイの声だとティナはすぐに気がついた。だが、もう一方は若い女性の声だ。英語らしいが発音がたどたどしい。


「あなたを……信じていれば間違いないとわかっているんです。でも、不安で……本当に結婚できるのかどうか……わたし」

「ミサキ、私を信じて下さい。必ずやあなたの望みを叶えましょう。私はあなたの幸福のためなら、どんなことでもするつもりだ」


ティナの心臓がトクンと鳴った。


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