アジアン・プリンス
王族の身分にある男性が、一般女性の前で膝を折る行為など信じ難い。お付きの男性が止めようとするのを身振りで静止し、皇太子は立ち上がる。
「お手をどうぞ」
優雅な動きで、皇太子は左手を差し出した。ティナは逆らうこともできず、その手を取ってしまう。触れた手は少し冷たかった。
「では、参りましょう。ミス・メイソン」
ほんの少し前まで、父の指し示す人生すべてを否定していたはずなのに……。
この人はプリンスではなく、魔法使いかもしれない。そんなことを考え始めていた。
ダンスは苦手、というより、ほとんど踊ったことがない。
ティナは皇太子に手を取られフロアに立った。しかし、その瞬間に、多くの人の目に晒され、中央に棒立ちだ。しかも、“お断り”のつもりの黒いドレスが余計に注目を浴び、顔から湯気が出そうなほどだった。
「私、本当に踊ったことがないんです。殿下に恥を掻かせます」
「それは困った。――だか、心配は要らない。私は君に恥を掻かせたりはしないよ」
「でも……」
「黙って。周りは見ないで、私だけを見るんだ。曲はワルツだよ……私に合わせて動くだけだ。さあ」
「お手をどうぞ」
優雅な動きで、皇太子は左手を差し出した。ティナは逆らうこともできず、その手を取ってしまう。触れた手は少し冷たかった。
「では、参りましょう。ミス・メイソン」
ほんの少し前まで、父の指し示す人生すべてを否定していたはずなのに……。
この人はプリンスではなく、魔法使いかもしれない。そんなことを考え始めていた。
ダンスは苦手、というより、ほとんど踊ったことがない。
ティナは皇太子に手を取られフロアに立った。しかし、その瞬間に、多くの人の目に晒され、中央に棒立ちだ。しかも、“お断り”のつもりの黒いドレスが余計に注目を浴び、顔から湯気が出そうなほどだった。
「私、本当に踊ったことがないんです。殿下に恥を掻かせます」
「それは困った。――だか、心配は要らない。私は君に恥を掻かせたりはしないよ」
「でも……」
「黙って。周りは見ないで、私だけを見るんだ。曲はワルツだよ……私に合わせて動くだけだ。さあ」