アジアン・プリンス
主賓である皇太子が踊り出さないことには、誰も踊れない。

センセーショナルに登場し、しかも異色のドレスを身に纏ったパートナーに誰もが興味津々だ。

ティナは、まるでおとぎ話のプリンセスにでもなった気分だった。

ライトの下で見る皇太子の瞳は、やはり吸い込まれるような海の青をしていた。髪は外で見たときより、幾分淡い色に思える。柔らかそうな髪質に触れてみたくなり、慌てて視線を逸らせた。

そして、黒のスーツかと思われたが、実際はブルーブラックで角度によって深い青が見え隠れする。写真より体格が良く、背も高い、170センチ弱のティナがヒールを履いても充分なサポートができる程度に。


「随分クラシカルなドレスだね。君の主義かい?」

「――殿下に、私の気持ちをわかっていただこうと思いまして」

「ミス・メイソン、アズウォルドに来た事は?」

「いえ。バカンスには行きませんので」


常夏の国アズウォルドの収入源のひとつが観光である。ハワイに匹敵するビーチがあり、その維持と安全対策は国がしている。


「海は嫌いかな?」

「そういうわけじゃ……あの、殿下。私はどうしても話しておかなければならないことがあります。父は多分何も話してはいないでしょう。そのことをお知りになったら、今回のお話は……」

「知っている」


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