アジアン・プリンス
まるっきり変わらぬ表情で言い切る皇太子に、ティナのほうが動揺した。


「あの……ご存知って……本当に、ですか?」


皇太子はティナに視線を固定したまま、優しく微笑む。


「私はこれでも摂政を務めている。我が国の王妃になる女性だ。多分、君のことで知らないことはないだろう」

「まさか、そんな」

「君が隠そうと必死になっている、闇に閉ざされたその奥に――純白の部分が隠されていることも、ね」


そう言って軽くウィンクをして見せた。何を差しているかすぐに思い当たり……。


「で、で、でん、でん……」

「冗談だ。ああ、どうか人には言わないでくれ。これ以上軽薄な称号をつけられて、補佐官を悩ませるわけにはいかない」


ティナのほうが拍子抜けである。


確かにタブロイド紙は、アズウォルドのプリンスは、同じアジアにある日本のプリンスと違って「プレイボーイ」「遊び人」だと書かれてあった。

日本人の婚約者がいながら、国内に複数の恋人を持ち、海外にも各地にデートのお相手が存在する、と。

もちろん、このアメリカにも、記事にあった女優だけでなく、モデルや富豪の未亡人など噂には事欠かない。


だが、実物に逢った瞬間、それらがすべて嘘に思えた。


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