アジアン・プリンス
ティナにはサッパリわからない。あの事件を知りながら、それでも自分を王妃に、という国王はいったい何を考えているのか。


「殿下。どうして私なのですか? 国王陛下は、どうして私をお選びになったのでしょう」


それまでは、打てば響くような返答をしてきた皇太子が、初めて口ごもった。そして、答えた言葉は……。


「陛下ではないのだ」

「は? あの……」

「あなたを選んだのは陛下ではなく、この私だ」


ティナには意味がわからない。


「アズウォルド王国の摂政として、私が君に王妃になってもらいたいと望んだ。いや、君でなければならないのだ」

「そ、そんな……。逆です、殿下。王妃なんて、このアメリカで私が1番相応しくないわ。私を妻にしたら、陛下が恥を掻かれます」


皇太子はひと呼吸入れると、妥協案を提示してきた。


「では……1度我が国を訪れて、陛下とお会いした上で決めてはもらえまいか? 陛下……兄上にお会いして、それでも君がお断り申し上げるというなら、私は黙って君をここまで送り届けよう。そして、他の候補者を探す。どうかな?」


そこまで言われては、とてもノーとは言えないだろう。それに、この皇太子と縁が切れるのが少し切なかった。今ここで断わらなければ、もうしばらくこの人の近くにいられる。


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