アジアン・プリンス
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「ソーヤ、それ以上笑うなら、私はレディ・チカコの勧める縁談にゴーサインを出すぞ」


苛立つレイからその理由を聞くなり、ソーヤは大笑いしている。レイはわざとらしく仏頂面を作り、そんな弟を睨んだ。


ティナとアンナが王宮の一室でとんでもない話題を繰り広げているそのとき、レイは国王執務室にいた。

表に立つ護衛官の中にニック・サトウの姿はない。彼は戴冠式直後、1ヶ月の謹慎処分と言う名の特別休暇を取る事になった。


皇太子時代に比べて警護官の人数も増える。外遊中は各国の警察が威信に掛けて警備を強化するはずだ。

連携を組むのはひと仕事だが、ニックに偏る比重を均衡にするためにも、必要なことだとレイが判断したのだった。


「参ったなぁ。新婚で浮かれているレイの気分を、引き締めてやろうと思っていたのに……。いやはや、なんともお気の毒」


執務室のソファに座り込み、甘党の彼は“ワガシ”を口に入れた。

日本から訪れた親戚の手土産だ。横に置かれたアッサムのロイヤルミルクティで、甘い“ワガシ”を流し込み、ソーヤはご機嫌である。


ソーヤの母、レディ・チカコはここ1ヶ月で随分丸くなった。アサギ島にも足繁く訪れ、前国王シン王子を見舞っているという。

レイやティナにも八つ当たりすることもなく……。


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