アジアン・プリンス
レイには、サトウの戸惑いがよくわかった。 

こんなことは初めてだ。彼自身、自分の気持ちをどう処理したらいいのかわからない。 

あの時――空から天使が降ってきたのかと思った。腕に抱きとめた瞬間、髪に括ったリボンが解け、その姿は眩しい太陽の光を身に纏った、黒衣の天使に見えた。

あの緑を帯びたヘーゼルの瞳に見つめられ、あろうことか、危うく唇を奪いたい衝動に駆られたのだ。

ダンスの最中もそうだ。

まるで、未亡人の如く、全身を黒で覆いつくしたスタイルに酷くそそられた。隠されれば隠されるほど、剥ぎ取って、すべてを見たくなる。彼女をこの部屋に連れ込み、あの黒いドレスをたくし上げ、ガーターベルトの奥にある真っ白な布地をこの手に掛け……。

どんどんエスカレートする想像に、プリンスも男であると、彼の体が主張し始める。称号では御し切れない部分だ。


(冷静になれ。彼女は私の妃候補ではない。絶対に、そうはできない女性なのだ)


この命も人生も、すべては国と国民のため――それは、物心ついた時から1度も変わることはなかった。

そう、生涯変わるはずのないものだ。

なのに……プリンス・レイは、自分の中の1番が揺らぎつつあるのを感じていた。


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