アジアン・プリンス
王室専用機、プライベートジェットというものに、ティナは初めて乗ることになった。


その前夜、モナコでバカンスを過ごしている妹のアンジーと電話で話しをする。


「いいなぁ、アズウォルドは楽園よ。最先端の設備が整ってる割に、自然も豊かだし食べ物も美味しいのよねぇ。あたしも、そっちのほうがいいなぁ」

「やけに詳しいじゃない。ひょっとして行ったことあるの?」

「当たり前じゃない! 何度も行ってるわ。ハイスクールの卒業旅行でも行ったしね」

「じゃあ、お父様はプライベートビーチとか所有してるのかしら?」

「やぁだ、姉さまったら、知らないの? アズウォルドでは王室しかプライベートビーチは持ってないのよ。不動産も外国人は所有できないって父さまが言ってたわ。チェックが厳しくって、裏を掻けないんですって」

「アンジー、あなた……」


妹はまだ、姉に持ち上がった、おとぎ話のような縁談を知らない。だからこそ、こんな軽口が叩けるのだ。


「お願いだから、あまり軽はずみなことは言わないで頂戴。その王室の依頼で、私はあの国に行く事になったのだから」


それは皇太子の配慮であった。

本気でティナに選択のチャンスを与えてくれたのである。図書館司書のティナは、王立図書館設立に向けてのアドバイザー、といった名目で入国することになった。


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